最近あまり読んでいなかったミステリ作品を読みたくなり、本屋さんで偶然出会って読みました。
著者の林譲治さんは私はいままで知らなかったのですが、SF作家としては有名な方のようです。
『不可視の網』は、少し先の未来が舞台で、いまの現実よりも少しだけ技術が発達しているように感じます。でも、技術の進歩はあまりテーマの中心ではないと思います。
本書の肝はたぶん2つあります。
ひとつは、機械(AI)が人の行動を決定することに対する漠然とした不安。
もうひとつは、生まれや育ちが階層を固定し社会の分断が広がること。
このふたつのことは、それぞれが現代の(特に日本における)問題ではあるのですが、このふたつが組み合わさったときに起こる(起こり得る)凄まじい社会の病理を描き出しています。
私が一番印象に残っているのは、途中で出てくる市役所職員の言葉です。ネタバレになるかもしれないので詳細は書きませんが、AIのアルゴリズムを設定する人間の考え方が社会の分断につながっているということに、おそらく本人は気が付いていないのですが、とても重要なシーンとなっています。
読み進めているとだんだんと事の真相が分かってくるのですが、読み終えたときにいくつかの疑問が残ってしまいました。一番初めのシーンからどのように処理をしてそこから大きな組織にしていったのか。結局、事件とAIの関係は社会でどのように評価されたのか。
全体的に面白かったですが、アッキーと船田のことを思うと、最後のシーンは胸糞悪いですね。