石鹸のような香りを放ち秋の訪れを告げる花、金木犀。
その花の名前を聞いた関係者が命を落とし、また、職を追われる。
主人公は、そのことに疑問を抱き真実に迫ろうとする警察庁警備局のキャリア官僚。彼もまた、危機に見舞われる・・・。
ストーリーとしてはよくあるようなものですが、特定秘密保護法のことなど、昨今の政治状況を踏まえた設定は、現実のものと思えてしまいます。
また、単なる謎解きではなく、部局内の人間関係やいくつかの中央省庁に跨る同期のキャリア官僚のネットワークが要所で描かれて、リアリティを増しています。
風景や心理描写もさすがです。
ただし残念なのは、帯の紹介で「圧巻の警察インテリジェンス小説」とあるものの、そっち方面の設定や描写は、単調です。
これは、主人公がインテリジェンスの前線で活動する者ではなく、警察庁警備局警備企画課のキャリア官僚であるので仕方ない部分はあるのでしょうが、「圧巻の警察インテリジェンス小説」と思って読むとちょっと期待外れになるかもしれません。
警視庁公安部の外事一課、三課、ロシア人、ヒューミント・シギントなど、インテリジェンス小説をよく読む人にとってキーワードとなるような言葉は散りばめられていますが、それらが重要な役割となっていないので、少々物足りないです。
個人的には、経済産業省の彼女が産業スパイ的な何かだったりするともっと面白かったと思ったりしました。彼女が主人公にしつこく連絡先を教えろというあたりで「こいつ何かあるな?」と思いましたが・・・。
なお、全体的には、とても面白いです。